2022.09.13
コラム
妊娠、出産、子育ての不安…「子育て世代包括支援センター」などを利用して相談の幅を広げよう
長い妊娠期間中には、喜びと同時に不安も同居するものです。また、出産直後も、これから始まる子育てに対する不安や困りごとは多いものです。
特に、身近に相談できる人がいなかったり、家庭環境が複雑であったりすると、心身の負担はより大きくなります。
そこで、妊娠から子育てまでをシームレスに支援する行政機関「子育て世代包括支援センター」が全国に設置されつつあります。
どのような場所なのか、どんな支援を受けられるのかをご紹介します。
子育てに関する負担・不安感を持つ人は多い
平成27年版の厚生労働白書によると、0歳から15歳の子どもを持つ人のうち、男性では約7割、女性では約8割が何らかの形で「負担・不安がある」と回答しています(図1)。
図1 子育てに負担・不安を感じる人の割合
(出所:「平成27年版厚生労働白書」厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/15/backdata/01-01-03-052.html
そして、内閣府の調査のうち、結婚経験のある人に対し地域で子育てを支えるために重要だと思うことをたずねた結果では、下のような回答が多くなっています(図2)。
図2 地域で子育てを支えるために重要だと思うこと(複数回答)
(出所:「少子化社会対策に関する意識調査」内閣府)
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/research/h30/zentai-pdf/pdf/s4.pdf p112
気軽に相談できる人や場の存在、防犯、子どもと一緒に遊び人や場、子育てに関する情報提供といったことが挙げられています。
かつてのように隣近所の付き合いが濃いものでなくなったり、核家族が増えたりしたということも影響していると考えられます。
また、ひとり親世帯は増加傾向にあります(図3)。
図3 ひとり親世帯数の推移
(出所:「男女共同参画白書 令和元年度版」内閣府)
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r01/zentai/html/honpen/b1_s05_02.html
これらの事情を総合すると、地域のなかでの身近な相談場所、地元での支援機関の必要性を求める人は多いことがわかります。
子育て世代包括支援センターとは
そこで、妊娠、出産、産後のケア、そして乳幼児の子育てまでの段階のあらゆる困りごとについて一括した窓口で相談に乗ったり、支援したりするための「子育て世代包括支援センター」の全国展開が進んでいます。
概要はこのようになっています(図4)。
図4 子育て世代包括支援センターの概要
(出所:「子育て世代包括支援センター業務ガイドライン」厚生労働省)
妊娠から子育てまでの間には、多くの機関が関わっているものです。
妊娠から出産までは健診などを医療機関が担い、予防接種などはおもに保健所の管轄です。また、何か問題があったときには児童相談所を必要とする、などこれまで必要に応じた施設はそれぞれにあったものの、窓口が異なることで不便になってしまっていることが多く、問題視されていました。
そして、これら全ての困りごとや手続きをワンストップでできるようになるのが子育て支援包括支援センターです。必要な施設と連携・連絡調整することでその都度必要なサポートにスムーズに繋がることができるのです。
また、もうひとつの特徴は、妊娠前から出産後、育児期まで長期にわたるサポートを同じ窓口、支援センターで受けられるという点です。長い付き合いができることで、過去の経緯をそれぞれの場所で何度も説明し直す負担が減ります。
そして、センターではおもに2種類の支援方法を取っています。
ひとつは、担当者が自宅を訪問し相談を受ける方法です。もうひとつは、公共施設などを使って集団形式で同じ悩みを持つ人とふれ合ったり、アドバイスを受けたりすることができるデイサービス型です。
助産師、保健師や看護師が所属しているのもひとつのポイントでしょう。
子育て世代包括支援センターの例
例えば、広島市の子育て世代包括支援センターではこのような事業を実施しています(図5)。
図5 広島市の子育て世代包括支援センターのサポート内容例
(出所:「平成28年度子育て世代包括支援センター事例集」厚生労働省)
妊娠中の交流会に始まり、産後ケアとしては乳幼児訪問、専門家による産後うつの調査、母親の心身ケアのために宿泊でのケアを受けられる施設やデイサービスによる支援体制を設けています。
その他、産後のヘルパー派遣事業や、妊娠時からの支援プランを作成し、一貫したサポートを得られるようにもなっています。
また、青森県の鰺ヶ沢町では、退院後の母子の通院に車で40分かかってしまうという立地条件もあり、訪問でのケアを積極的に実施しています(図6)。
図6 鰺ヶ沢町での支援例
(出所:「平成28年度子育て世代包括支援センター事例集」厚生労働省)
住んでいる地域や生活のスタイルは様々です。各地の子育て世代包括支援センターは、各家庭の事情に応じた特色あるサポートを打ち出しています。
その他に知っておきたい公的支援機関
子育て世代包括支援センターはまだ全国展開の途中ではありますが、他にも今ある子育て支援に関する公的機関は積極的に利用したいものです。
特に経済的な事情があったり、家庭環境が複雑であったり、虐待のおそれや望まない妊娠、子どもの発達の心配といった場合は、みずから周囲との繋がりを持ちに行くのはハードルが高いことでしょう。
そうした場合にも、公的機関であれば積極的にアプローチすることができます。子育て世代包括支援センターがある自治体でない場合、以下のような施設・機関が考えられます。
・日本助産師協会=妊娠・出産・子育てだけでなく、女性の性・生殖に関する健康問題についても相談可能。電話で気軽に相談できるほか、訪問を実施しているところもあります。
(https://www.midwife.or.jp/general/supportcenter.html )
・こども医療でんわ相談=子どもの体調などの異変について、病院を受診すべきかなどの対処方法を電話で聞くことができます。ぐったりしている、頭ををぶつけた、などの際にも相談できます(早朝・夜間除く)。
電話番号「#8000」で、地域の相談窓口に自動転送されます。
(https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/10/tp1010-3.html )
・日本精神保健福祉士協会=子育ての悩み相談をメールで受け付けています。
(https://www.jamhsw.or.jp/consultation_counter/index.htm )
・全国児童相談所=虐待のおそれがある場合はすみやかに連絡しましょう。
電話番号「189」が対応ダイヤルで、地域の児童相談所に転送されます。(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/zisouichiran.html )
・国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター=成長や発達に心配があるときの相談窓口です。
(http://www.rehab.go.jp/ddis/action/center/ )
・公益財団法人母子衛生研究会=オンラインで幅広い相談に乗ってくれる窓口です。
(https://www.mcfh.or.jp/soudanshitsu/index.html )
上記には耳慣れない機関もあるかと思いますが、これらの存在を知ることで相談先の幅が広がります。
ひとりで抱え込み親が心身の負担をため込むことが、かえって子どもに良くない影響を与えることが多くなってしまいます。
私的な集まりに参加しにくい事情があっても、自分が気楽そうだなと思える機関を選んで親が積極的にアプローチするのは、子どもが持つ権利でもあります。
清水 沙矢香
福岡県出身。2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や統計分析を元に各種メディアに寄稿。