2023.09.12
コラム
辛い「アウェイ育児」を解消しよう 地域子育て支援拠点ってどんなもの?
日本では育児をめぐる様々な課題が指摘されていますが、「アウェイ育児」もそのうちのひとつです。
「アウェイ育児」とは、文字通り「ホーム」ではなく「アウェイ」の土地で育児をするということです。
具体的には、自分が生まれ育った市区町村以外で子育てをしている母親のことを指します。
進学や就職を機に地元を離れることが珍しくなくなったいま、多くの母親がアウェイ育児の状態にあります。
ではそのようなアウェイ育児にはどのような問題があるのでしょうか。
解消方法と合わせて、一緒に見ていきましょう。
7割が「アウェイ育児」に直面している
NPO法人子育てひろば全国連絡協議会が実施した
「地域子育て支援拠点事業に関するアンケート調査2015・2016」
によると、自分の育った市区町村以外で子育てをしている、つまり「アウェイ育児」の状態にある母親の割合は7割を超えています(図1)。
図1 「アウェイ育児」の状態にある母親の割合
(出所:「人生のスタートを孤立させない」内閣官房資料)
一方、横浜市の「子ども・子育て支援事業計画の策定に向けた利用ニーズ把握のための調査」では、「日常の子育てを楽しく、安心して行うために必要なサポートで必要だと思うもの」として、未就学児の保護者からは以下のような項目が挙げられています(図2)。
図2 子育てを楽しく・安心に行うために必要なサポート
(出所:「孤立させない子育てを目指して 地域子育て支援拠点の役割」法務省資料)
https://www.moj.go.jp/content/001315974.pdf p.14
子供を遊ばせる場所や機会、親のリフレッシュの場や機会、子育て中の親同士の仲間づくり、親の不安や悩みの相談、といった項目が上位にきています。
生まれ育った地域での子育てならば、近くに親やきょうだい・親戚や頼れる友人がいて、
「ちょっと子供を預かってくれる」
「自分の代わりに子供と遊んでくれる」
「子育ての不安や悩みを聞いてくれる」
相手になり得ます。
しかし「アウェイ育児」の場合、そのような人が近くにいるという人は少ないことでしょう。「ママ友」ができたとしても、子どもを預かってくれる、というような頼み事までは簡単にできるわけではありません。
地元とのこうした環境の違いが、アウェイ育児をしている母親の負担を心身ともに大きくしているのです。
仕事との両立を難しくしている要因にもなっていることでしょう。
NPO団体に寄せられているアウェイ育児のつらさには、このようなものがあります*1。
・子育てが辛いんじゃない。子どもたちはかわいい。でも不安や孤独で押しつぶされそうで、どうしようもない時がある。
・頼れる人のいない土地。子どもにつきっきりの長く心細い一日。
ろくに家事もこなせず、うつろに考え込む。
自分の存在は一体何の価値があるのだろう。
孤独感が高まるにつれ、自信を失っていった。
とくに未就学児となると、朝から晩まで子どもにつきっきりになってしまいます。「ワンオペ育児」を頼れる人のいない環境でこなすという母親も少なくないでしょう。かなりの負担といえます。
経験の少なさも負担を加速
また、自分の子どもより以前に赤ちゃんの世話をしたことがない、という人が多数にのぼっています(図3)。
図3 自分のはじめての子ども以前に赤ちゃんの世話をした割合
(出所:「人生のスタートを孤立させない」内閣官房資料)
背景には少子高齢化、核家族化があると考えられます。
一人っ子であれば赤ちゃんに接する機会も減りますし、親族など近い関係にある人たちの出産も減っていればなおさらのことでしょう。
経験の少なさもまた、母親を戸惑わせる要因です。
アウェイ育児の負担を軽減する「地域子育て支援拠点」
こうした環境を軽減する方法はあるでしょうか。
まずひとつ、ここでご紹介したいのは市町村が運営している「地域子育て支援拠点」です。
下のような目的で設置されています*2。
1)子育て親子の交流の場の提供と交流の促進
2)子育て等に関する相談・援助の実施
3)地域の子育て関連情報の提供
4)子育て及び子育て支援に関する講習等の実施
加えて、さらに多機能化が促進されているところです(図4)。
図4 地域子育て支援拠点における多機能化の推進
(出所:「孤立させない子育てを目指して 地域子育て支援拠点の役割」法務省資料)https://www.moj.go.jp/content/001315974.pdf p16
なお、地域子育て支援拠点には「ひろば型」「センター型」「児童館型」があります*2。
ひろば型
常設のひろばを開設し、子育て家庭の親とその子供が気楽に集うことのできる場所です(図5)。
図5 「ひろば型」拠点の一例、山形県「子育てランドあ〜べ」
(出所:「地域子育て支援拠点事業 実施のご案内」厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/pdf/gaido.pdf p9
同年代の母親が子どもと一緒に立ち寄り、子どもを遊ばせながら母親同士も交流できるという場所です。
センター型
センター型の地域子育て支援拠点には、保育士や看護師などの有資格者がいて、子育てに関する相談ができる場所です。保育所などの児童福祉施設、公共施設などで実施されています。
児童館型
児童館型の地域子育て支援拠点は、民営の児童館や児童センターで、学齢期の子どもが来館する前の時間などを利用して親子の交流、集いの場所を設けています。また、子育て中の親などの当事者などをスタッフとして交えています。
夫婦の家事・育児負担の見直しも
もっとも、家庭内で家事・育児負担を見直すことも重要です。
日本は国際的にみても、家事・育児に対する夫婦間の負担の差が大きい国になっています(図6)。特に育児時間の不平等が目立ちます。
図6 夫婦の家事・育児時間の国際比較
(出所:「男女共同参画白書」内閣府)
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/zentai/html/column/clm_01.html
男性の育児休暇取得率が低いことも要因のひとつと考えられますが、父親の育児への積極参加や理解が、母親にとって物理的な負担軽減だけでなく、精神的な負担を軽くするのはいうまでもありません。
子供は周囲との関わりで育つ
NPO法人子育てひろば全国連絡協議会は、子育てについてこう記しています*3。
人生のスタートが、地域や社会から祝福されるものであってほしい!
まさにその通りで、子どもは母親だけでなく、他の子どもや大人といった様々な人との関わりのなかで育っていくものです。
筆者自身の子どものころを振り返ってみても、「お母さんの友達」「お父さんの友達」「近所のおじちゃん、おばちゃん」といった大人との親密な関わりは重要であったと考えます。外から自分の成長を見守ってくれる存在です。
子どもが多様な人と接する権利を奪ってしまわないためにも、利用できる施設や制度が近くにないか、探してみることが重要です。
また近年は、子育てと介護が重なる「ダブルケア」による母親の過剰な負担も問題視されています。
まずは利用できるすべはないか、市役所や区役所に問い合わせてみるのも良いでしょう。積極的に助けを求め、孤立しない手段を確保しておくことは、子どものためにも重要なことなのです。
*1、3
「人生のスタートを孤立させない」内閣官房資料
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodoku_koritsu_platform/kodoku_koritsu_platform_setsuritsusoukai/dai1/siryou3.pdf p2、8
*2
「地域子育て支援拠点事業 実施のご案内」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/pdf/gaido.pdf p5、p4、p11、p17
<清水 沙矢香>
2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。